粟根まこと
コメント

粟根まこと

――今回は“いのうえ歌舞伎【譚】Retrospective”と銘打った、“鬼”が出てくるお話になるとのことですが。

昔話がテーマになるようですが、ただ今回は中島かずきさんではなく青木豪さんの脚本なのに“鬼”の話なんだ!と、ちょっと意外でした。でもやはり“鬼”の描き方、アプローチの仕方は全然違ってきそうですね、より昔話っぽくなっているような印象は受けています。たとえば『朧の森に棲む鬼』もタイトルに“鬼”がついていますが、『朧』が激しく鋭角なイメージだとしたら、今回の『紅鬼物語』はもう少し丸い昔話的なものというか。とはいえ『まんが日本昔ばなし』みたいな感じではなく(笑)、どちらかというと御伽草子のイメージになっていると思います。

――粟根さんが青木豪さんの作品に感じている魅力というと。

青木さんの描かれる登場人物って、非常に人間臭いんですよね。中島さんの場合はアニメ的だったり劇画的だったりするんですが、青木さんの場合は人間のおかしみとか、哀れさ、そして優しさを感じさせる作品が多いように思います。だから“鬼”がテーマでもきっと全然違うアプローチになるんじゃないかな、と私も楽しみにしております。

――共演陣の顔ぶれについては、いかがですか。

新鮮ですね。前作の『バサラオ』のゲストは新感線経験者ばかりでしたので、既に劇団の作風やいのうえさんの演出法に慣れていらっしゃる方が多く、稽古の段階からサクサクと世界観を構築することができたんですけれども。今回は初参加の方がたくさんいらっしゃって、しかもそれぞれの立つフィールドが見事にバラバラですからね。まるで異種格闘技戦の匂いがします。だって、宝塚を退団したばかりのトップに、大衆演劇のスターに、ヴィジュアル系エアーバンドのギタリストでしょ。初舞台の二枚目俳優や、元乃木坂の演技派、演出もできる個性派俳優に、2.5次元のプリンス。ほーら、なかなかの顔合わせ(笑)。

――改めてそう説明されると、すごい面々が揃いましたね。

中でも早乙女友貴くんと千葉哲也さんという常連組2名がいてくださることは、大変心強いです。千葉さんは演出家としての目線でもバックアップしてくれますし、友貴くんは今回も当然ながら華麗なる立ち回りを見せていただきたいですし。颯さんや日奈さんと年齢も近いと思うので、若手のみんなを友貴くんが引っ張ってくれたらなと思っております。身体能力の高い人が集まっている印象も強くありますよね。柚香光さんもそうですし、喜矢武くんも身体が効くし、もちろん拡樹くんもバリバリ動けることはわかっていますから、華麗なる立ち回りやスペクタクルな部分も楽しめる作品になるのではないでしょうか。そして実は日奈さんとは私、『+GOLDFISH(プラスゴールドフィッシュ)』(2019)という舞台で共演しているんですよ。喜矢武くんとは、同じシーンはなかったんですけど映画で一度共演しておりまして。千葉さんと拡樹くんは新感線の『髑髏城の七人~Season月』の《下弦の月》に出られていたので、《上弦の月》だった私とは舞台上で共演はしていないんですが、稽古はずっと一緒でしたからね。でもその前に拡樹くんとは、別の舞台『abc★赤坂ボーイズキャバレー3回表!~自分に喝を入れて勝つ!~』(2012)という作品で共演していたんですよ。拡樹くんが2.5次元界のプリンスになる直前の頃ですけどね。だから今回は、満を持して新感線で共演できるのでちょっと楽しみなんです。というわけで、私個人としてはこの多彩なキャストのそれぞれとはほぼ共演済みだったりするんですが、かといって私では特に橋渡し役にもなれないだろうなと思っております(笑)。

――そうなんですか?(笑) でも、皆さんは粟根さんがいてくれることで心強く思われているのでは。

まあ、初めましてではないから、何らかの助言はしやすいかもしれないですね。でもやはり、千葉さんにみんなをまとめていってもらいたいです。《下弦の月》の時もまとめ役として引っ張っていってくれていたという実績もございますし。だから簡単に言うと今回は、友貴くんと千葉さんという心強い常連組と新鮮な初参加組とのコラボレーションをたっぷりお楽しみください、ということです。そして、そのゲストの方々にのびのびやっていただけるよう、劇団員たちみんな揃ってバックアップしていくつもりです。

――では、お客様に向けてメッセージをいただけますか。

ともかく今回は、それぞれが異なった個性を持つ大人気の方たちが一堂に会し、いのうえ歌舞伎の新作をやることになるわけです。もちろん不安などなく、楽しみのほうが圧倒的に勝ちますし、この顔合わせで起きる化学反応が非常に興味深いなと出演者ですら思っているくらいですから。それぞれのファンの方たちも、もしかしたら推しのこれまでとは全然違った一面を見つけられるかもしれませんよ。その点もぜひ楽しみに、劇場にお越しいただきたいと思います。