コメント

主宰・演出いのうえひでのり

――今回は劇団の45周年興行ということで、青木豪さんに脚本を書き下ろしていただくわけですが。特に“いのうえ歌舞伎【譚】Retrospective”と銘打った狙いとしては、どんな想いがあったのでしょうか。

昔話、またはお伽噺という切り口のいのうえ歌舞伎はこれまでやっていないから、新しいかなと思ったんです。(中島)かずきさんが書くいのうえ歌舞伎の場合は少年マンガ寄り、活劇寄りというのが大前提にありますが、今回は柚香光さんを迎えることもあって、芝居の雰囲気を少年マンガというよりは幻想怪奇小説寄りにしてファンタジー度を上げたいという気持ちもありました。

――“鬼”が出てくるお話になるそうですね。

これまでもかずきさんの作品で『阿修羅城の瞳』や『朧の森に棲む鬼』など、僕らもいろいろな形で“鬼”を扱ってはきましたが。その中でも今回は特に、幻想怪奇的なラインを強調しつつ、昔からある日本の鬼伝説や伝承をモチーフにしていくつもりです。ちなみに時代設定は、酒吞童子の物語が入ってくるので平安時代になると思います。

――青木さんにはそういうリクエストをされたんですか。

そうです。でも同じ“鬼”を扱うとはいえ、これまでとは似て非なるものとして、より、お伽噺感を出して色分けをしていきたい。それと、作るほうの意識としてはあくまでも“謎解き”ではなく、不思議なことを不思議なまま終わらせるみたいな感覚と言いますか。実はそういう伝説って、実際にあった出来事が人間の口、言葉を経ることで変化していき“鬼”のせいにすることで物語になることも多くあったと思いますからね。そういった空気感も、意識してみたいです。

――青木豪さんとのタッグは劇団☆新感線の本公演では『IZO』(2008)、『港町純情オセロ』(2011)、『ミナト町純情オセロ~月がとっても慕情篇~』(2023)に続き、4度目となります(新感線以外では、おにぎり『斷食』(2011)、ヴィレッヂプロデュース『断色~danjiki~』(2013)、パルコプロデュース『鉈切り丸』(2013)、ヴィレッヂプロデュース『カチカチ山』(2020))。青木さんと組む面白さというと。

それはやっぱり、豪ちゃんならではのちょっとマニアックな視点やニュアンスが出てくるところ。そういう、ふだんの新感線とは少し違う面白さ、魅力をいかに出していくか、ということを豪ちゃんとご一緒する時にはいつも一番に考えますね。

――さらに、今回の公演で期待していることは。

特に東京公演は劇場のサイズが小さめなので、そこを逆に「だからこそ良かった」と思われるような長所にしたいと思っているんです。柚香さんをその距離で観られる贅沢さ、みたいなことも出てくるかもしれません。

――その柚香さんはもちろん新感線初参加で、宝塚歌劇団を卒業後のお芝居という意味ではこれが第1弾になります。

まだ何度かお会いしたくらいですけど、コンサートを拝見したらとても真面目そうな方でしたし、とても可能性を感じました。とにかくスタイルが抜群によろしいので、あのビジュアルをうまく活かしたいとも思っています。せっかく新感線に出ていただくんですから、そこは間違いなく歌も踊りも期待していただいて大丈夫! できれば宝塚時代には出していなかった魅力みたいなものも、ぜひ引き出したいなと思っています。

――柚香さん以外にも、初参加組のキャストが多いことも新鮮ですね。

そうですよね。喜矢武豊くんが新感線をよく観に来てくれているという話は、何度か聞いていて。(早乙女)太一や友貴とも仲いいらしいですしね。彼が主演だった『犬夜叉』は僕も観ていて、身体が効く人だとは思っていたんですよ。一ノ瀬颯くんは僕のワークショップに参加してくれた時、とても素直でいい感じだったので、今回出てくれることもいい機会になりそうだと思っています。映画で立ち回りも披露されていたし、その点でも安心かなと。樋口日奈さんは舞台に出ていた彼女がとても良かったという評判をよく聞きますし、なにしろ乃木坂46は才能のある方が揃っていますからね、もちろん彼女にも期待しています。

――ちょっとお久しぶりのところでは、『髑髏城の七人~Season月《下弦の月》』以来の鈴木拡樹さんも出演されます。

あれ以降もミュージカルなどさまざまな作品に出られて経験を積まれているので、『月髑髏』以来でさらに成長した拡樹をぜひ見たいと思っています。前回の天魔王は彼本来のキャラクターとは全然違う役でしたから、今回のほうが本来の持ち味に近い役になるかもしれません。

――そして、この座組においての早乙女友貴さんは。

友貴は、そういう意味では“番頭”みたいなポジションになるのでは、と(笑)。準劇団員だけど、もはやほぼ劇団員というか。年齢的にはまだ若くても、いい“お兄さん”として劇団員とゲスト、特に初参加の方々との良いつなぎをやってくれるんではないかと思います。

――千葉哲也さんは新感線には6回目の出演になります。

千葉さんはもう、癒し、ですね(笑)。いてくださるだけで、みんな相当ホッとするんじゃないかな。さらに千葉さんは俳優であり演出家でもあるから、その視点を持っていることでもすごく心強いと思います。うちの劇団ならではの居方とか、立ち方みたいなことを初参加の方にも伝えてくれるかもしれないし。劇団員はどちらかというと人見知りの人が多いから(笑)、そういうつなぎみたいなことは上手にできないかもしれないんで。

――その劇団員からは、粟根まことさんがメインキャストとして出演されます。

「この舞台は劇団☆新感線だよ!」っていうことで、代表して頑張ってもらいましょう!(笑)  また今回はそれほどチャラけた感じの舞台にはならないんじゃないか、とも思っています。歌も踊りも入る“いのうえ歌舞伎”ではあるけど、ここ最近の作品のなかでもより物語性を重視した舞台にするつもりでいます。新感線版お伽噺、どうぞご期待ください!