「おお~、45周年か!」と思いつつ、この長い新感線の歴史の中で自分が在団していた時期って、振り返ると実はたったの8年くらいなんですよ。僕の中では、退団後もずっと何をやっていても新感線にいる気分のままではあったんですが、でもそうか、8年しかいなかったのか、と。それでもこうして、古田さん、(高田)聖子、(橋本)じゅんさん、(羽野)晶紀、粟根さんといった劇団員たちとなら、すぐにあの頃の感覚に戻れるというか、まるで家に帰ってきたかのように居させてもらえることがとてもありがたくて。帰る場所があるというのはホンマ、役者にとって大事なことだと思うんですよ。どんなバカなことをやってもみんなが笑ってくれて、何の格好もつけずにいられる場所。今回も、やはりいのうえさんや(中島)かずきさんから「さとし……GO!」と、サインが出れば行くしかない!!と思っています。
「できません!」なんて言えないんで。若い頃から刷り込まれていますから、熟年になっても「ハイ!」と言うしかないんです。僕は『メタルマクベス』disc1(2018年)で21年ぶりに新感線の舞台に復帰したわけですが、ダメ出しとか、要求されることはその21年前とまったく変わっていなかったですからね。冗談じゃなく「その階段の2、3段上あたりからジャンプして、上でピッて止まれる?」みたいなことを平気で聞かれるんですよ。
昔より体重も増えているし筋力も衰えているから、ドターンってなった時点で「あ、やっぱりいい!」となりましたけどね(笑)。今回の『忠臣蔵』という演目に関しては個人的な思い入れは残念ながらなくて、『忠臣蔵』といえばお正月前後にやる出し物だよなあ?とか、せいぜいその程度。だから『爆烈忠臣蔵』の“忠臣蔵”よりも、“爆烈”に僕は食いついています。爆烈がつくんだ、やっぱり劇団☆新感線のお祭りやな~!って速攻でスイッチが入りますから。
そうなんです。さらに、右近健一くんとしょっちゅう絡んでいる役でもあって。実は俺、右近に弱いんですよ。つまり、彼の芝居がツボなので、すぐ笑ってまうんです。前回共演した『偽義経冥界歌』(2019、2020年)の時も顔を見合わせるシーンがあったんですが、アイツ、俺がゲラなのを知ってて仕掛けて来るもんだから。結局それが悪い相乗効果で、僕も右近に仕掛けちゃってお互い笑っちゃう始末でね。そんなバトルが今回も裏ではあるのかもしれません。役割としては、これまで新感線で演じてきた、暴れん坊的なキャラクターとは一味違うので、新感線での新たな自分が発見できるかも、と楽しみにしているところです。でも僕はセリフ覚えがすごく悪いというのに、今回は状況を説明するセリフが多くて。なおかつ、かずきさんの書くセリフには漢字が多いんですよ。俺が漢字に弱いって知ってるはずなのになんでかなと、そこにはかずきさんの愛のムチも感じつつ。
試練なのかもしれませんね。「いいんですか、知りませんよ?」って思っていますけど(笑)。って、そういうアホなことになっても笑い飛ばしながら、ひたすら突っ走れるところが劇団☆新感線ならではのエネルギーに繋がっている気もするんです。今回もまた久しぶりに、いのうえメソッド、劇団☆新感線メソッドに身を委ねていきたいと思っています。
今回のゲストの方とは、意外とご一緒するのが初めてだったりするんですよ。小池栄子さんと向井理さんとは初めましてだし、(早乙女)太一とは一度、別のところで一緒の舞台に立っているけど、ほとんど絡みのない関係性だったし。でも準劇団員というか、既に新感線の身内みたいな方々ですから、共演できることが楽しみで仕方ないです。あと、実は古田さんとは僕、『BEAST IS RED〜野獣郎見参!』(1996年)以来の共演なんですよ。聖子とも、劇団員時代の僕にとっての最後の作品になる『直撃!ドラゴンロック~轟天』(1997年)以来だったりして。
そう考えると、感慨深いです。古田さんとは会うこと自体が久しぶりだし、また一緒に舞台に立てるなんてちょっと怖くもあります。きっと昔と変わらずいじってもらうことになるんだろうけど、何十年ぶりかにやっぱり学生の頃の気持ちが蘇ってくるんでしょうね。劇団の45周年記念の公演で、ずっと看板を背負い続けてこられたあのでっかい背中を久しぶりにすぐそばで見せてもらえるなんて。ホント、いい機会をいただきました!!
俺、新感線ではずっとバカキャラで。でもいろいろな経験もしてだいぶ大人にもなって、外ではそれほどバカとは言われなくなってきて。そんな中でもずっと今も自分の中で燃え続けているのが“ロックバカ”な部分。役者をやってても何をしてても、結局自分の心の中にはいつもロックのリズムがあるんです。中学生でKISSを聴き始め、そこから先の僕の人生ドキュメンタリーを作るとしたら、BGMは全部ロックでできるくらい。そういう意味でも、僕は死ぬまで“ロックバカ”でいたいなと思っています。
いのうえさんとかずきさんは、言葉が必要ないくらいに僕のことを一番わかってくれてる演出家であり作家なので。だから今回も変わらず、ペーペーの扱いのまま使っていただいて構わないんですが、ただ、僕も劣化はしていますので、とは言っておきたいですね(笑)。たぶん『メタルマクベス』disc1の時にわかったと思うんですよ。「あ、いつまでもあの頃のさとしじゃねえんだな」と。そのわりに『偽義経』では延々戦い続ける役だったんで、ちょっとおかしいんですけど(笑)、でも嬉しくもあって。だから今回も思いっきりバカな僕を、雑に扱っていただければと思います! いのうえさんの、おもちゃにいくらでもなりますよ(笑)。
(はしもと・さとし) 1966年4月26日生まれ 大阪府出身 1989年『宇宙防衛軍ヒデマロ4~逆襲のビリィ』より劇団☆新感線に参加し、97年の『直撃!ドラゴンロック~轟天』で退団するまで、数多くの作品に出演。2004年・08年に『ミス・サイゴン』で主役のエンジニアを、07年・09年に『レ・ミゼラブル』で主役のジャン・バルジャンを演じるなどミュージカルでの活躍が際立つが、ストレートプレイや映像作品にも多数出演。また、NHKのドキュメンタリー番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」ではナレーションを務めている。18年の『メタルマクベス』disc1で21年ぶりに劇団☆新感線公演に出演し話題となった。近年の主な出演作品に、【舞台】『二都物語』『ラブ・ネバー・ダイ』(25)、『カム フロム アウェイ』(24)、『千と千尋の神隠し』(24・22)、『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』(24・23)、【映画】『劇場版TOKYO MER〜走る緊急救命室〜』(23)、『新解釈・三國志』(20)、『七つの会議』(19)、【ドラマ】『ブラックペアン シーズン2』(24・TBS)、『パーセント』(24・NHK)、『警視庁・捜査一課長 スペシャル』(24・EX)、『推しを召し上がれ~広報ガールのまろやかな日々~』(24・TX)などがある。