『偽義経冥界歌』の時に博多座での公演(2020年)がすべて中止になり、とても悔しい思いをしまして。「いつか必ずリベンジしよう!」ということは、いのうえさん始めみんなで話していたことでしたから、ついにこの時が来たな!と思いました。
本当にすごく悲しかったし、悔しかったし、やりきれない気持ちだったので。僕もそうだし、いのうえさんも劇団員やキャストのみんなもそうでしたから、ようやくその雪辱を果たせる時が来た!ということです。今回は、そういう悔しい想いを経験した博多座を皮切りに、東京と大阪で大暴れする予定になっているのでたくさんの方に観に来ていただきたいです。
粋なことを考えますよね、本当に新感線のみなさんは。しかもあの時は劇団☆新感線が39周年の“サンキュー公演”だったんですけど、今年は僕が39から40歳になるタイミングだからまさに“サンキュー公演”だと(笑)。そんな、カッコイイことをしてくれる先輩たちとまた一緒に芝居ができることは本当に嬉しいです。
ねえ。ありがたいような、なんだか不思議な感覚です。
一番、緊張感がある場所のような気がします。近いからこそ「会わなかったこの数年間で、さあ、どんなことができるようになりましたか?」と言われている気分になるというか。実際は別に誰もそんなことは言わないし、思ってるかどうかわからないですけど、勝手にそういう気持ちになるんです。
そうなんです。だけど、その真逆で一番近くにいる人たちだからこそ思い切ったことができるとも言える。たとえどんなことでも、何をやっても胸を借りる気持ちでやれる。その両極端があるのが面白いなって思います。17歳で初めて出会った時は2002年なので、新感線もまだ東京に出て来てからそれほど経っていない頃だったんです。だからこんなに時間が経っても、お互いがお互いを求め合い続け並走してきたという感覚もあって。不思議な感じですね、家族のような、戦友のような。
そうそう(笑)、だけど間違いなく、僕にとって新感線のみなさんは師匠でもあるんですよ。
そうなんですよ。古田さんとご一緒したのは映画『土竜の唄 香港狂騒曲』(2016年)だけなので、ようやく念願が叶うと言いますか。毎回新感線に出るたび「また古田さんいないの!」って言っていたので(笑)。一時期の新感線は「春は古田、秋は生田」みたいな流れになったりしていたこともあったから「これってなんだか俺、何かを任されているな!」って気持ちになった時もありました(笑)。
僕が10代の頃に見ていたキレッキレの古田さんは、何をやってもウケるし、見得を切れば鳥肌が立つくらいかっこいいから「古田新太ってスゲー!」って思っていたんです。そこから古田さんも年齢を重ねて、お酒の量もますます増えて(笑)。なんとなく年を取ったのかなーみたいな瞬間が、正直言うと何回かあったんですよ。だけどこの間の『天號星』(2023年)を観た時、「うわー、この人スゲーじゃん!化け物じゃん!!」と思い知らされて。だから余計に、一緒にやれることにはワクワクするし、アガってくる感じがすごくあります。
この“生田斗真サンキュー公演”をやりましょうと企画が動き始めた時点で「じゃ、そこに俺がいないとダメだよね」と言ってきてくれたのが倫也で(笑)。『Vamp Bamboo Burn~ヴァン・バン・バーン!~』(以下『VBB』、2016年)で一緒だった時は、今みんなが知ってる中村倫也というより、「なんかヤバイやつ、演劇界にいるよね? 中村倫也でしょ、知ってる知ってる」というような存在だったんですけど、僕は絶対に中村倫也の時代が来ると確信していたし、『VBB』を観たお客さんたちもそう思っていたはずで。そうしたら、あれよあれよといううちに今の中村倫也になり、きっと真ん中に立ちさまざまなものを背負うことで傷つくこともあっただろうし、この数年間はいろいろあったとも思うので、その倫也と再び舞台に一緒に立てることはものすごく楽しみです。プライベートでも、より仲良くなりましたしね。
最初に思ったのは稽古場で、だったんですけど。序盤で一度、通し稽古をやろうということになったら、それまでももちろん本気でやっていたつもりだったんですが、二人が対峙するシーンで倫也が急にグッとギアを上げた瞬間があったんです。反射的に「ヤバイ、飲まれる。これ、本気でぶつかっていかないとやられる!」みたいな感覚があって。そういう感覚を味わえたのが僕はすごく嬉しくて、あとで倫也に「ギアを上げられて、こっちも気合いが入ったよ」みたいなことを言ったら「ま、そういうのをするのが俺の役目だからさ」なんて。あの、あえてやってる感じも腹立つんですけどねえ(笑)。ああやっていろんなものがちゃんと見えていて、その上で自分の役割に邁進できる、本当に信頼できるやつだと思いますね。何より『VBB』をご覧になったお客さんたちは特に「またあの二人が一緒にやってくれる!」と喜んでいただけているのではないかと思います。
かずきさんが、以前から「『ジャパッシュ』(望月三起也著の漫画)みたいな、自分の美貌だけで日本を掌握しようとするキャラクターの話を書いてみたい」ということはおっしゃっていたので、まさに書きたいものを書いている感じもありましたし、いかにも劇団☆新感線の真骨頂のイメージもあったのですごくワクワクしました。コロナ禍以降は新感線も意識して明るい作品をやり続けていましたけれど、今回はちょっと久しぶりにダークな新感線が味わえるというのもひとつの見どころかなと思いますね。
そうですね。劇場を出る時に「ああ~、楽しかった!」とスカッとする作品ももちろん大好きなんだけど、こういうちょっとモヤっとした気持ちで席を立つあの感覚もクセになるというか(笑)。
なんだか、この年齢になってから悪いキャラクターをやらせていただくことも増えてきていて。しかも、意外なほどに評判が良かったりもして「すごく合っていたよ」なんて言われると、俺、本当は性格が悪いのかなって思ったりもしていますが(笑)。「見ていて、本当に腹立たしかった」とか「憎たらしいやつだよね」とか、すごく言われますし。
そう、「嫌なやつ」と言われると、自分もそうなのかって気持ちになっちゃって(笑)。だけど、年齢を重ねたことで新たな自分に出会えたという感覚もあります。
顔だけでのしあがっていくって、どんな人なんですかね。でもやっぱり、新感線はいのうえさんのプランニングみたいなものがまずは屋台骨になりますから。いつも、稽古場に行って初めて「あ、そっちなんだ」と発見させてもらっているので、今回もなんとなくセリフだけ覚えてフラーッと稽古初日に臨もうかなと思っています。周りも勝手知ったるみなさんばかりなので、安心して身を任せていくつもりです。
とにかく大千穐楽に、みんな揃って笑顔でゴールテープを切りたいです。だけど今回の公演数って、劇団史上最多なんでしょう? 本当にちょっとどこかのネジが緩んでるんじゃないかと思いますよ、新感線の人たちは(笑)。だってみんな年齢は上がっているのに、公演数も増やしてどうするの、普通は逆じゃないですか!
バカみたいですけど「ツッコミは声が大きい方が面白い」ということですかね(笑)。どうしても、大きくツッコんじゃうんですよね。今はいろいろと多様な笑いの形があるし、漫才を見ていてもボソボソやったり淡々とかけあっていくものもすごく面白いと思っているんだけど、自分がやる側になるとものすごい大声になってしまうのは……間違いなく、ここの劇団の先輩方のせいです!
2024年の新感線の公演は、この『バサラオ』一本だということですので。みなさんも、ぜひ気合いを入れて一球入魂で来てください。歌も踊りもたっぷり盛り込まれる舞台ですから、絶対に見応えのある楽しい作品になるはずです。劇場でお待ちしています!
倫也かな。『VBB』の時、ちょうど僕の誕生日が来て、倫也がいろいろ仕切ってスタッフやキャストみんなの写真付きのメッセージアルバムみたいなのを作ってくれたんですよ。全然知らなかったから、みんなの前で「おめでとう!」って渡されて、開いた瞬間に「あ、これヤバイやつ!」って思いましたよ。そのアルバムはもちろん大事に今もとってあるし、一生忘れられない誕生日になりました。ま、今回も公演期間中に誕生日が来るんで、先に言っておきます。「素敵な40歳のお誕生日をありがとう、中村倫也くん。先に感謝しとくよ!」
(いくた・とうま) 1997年、連続テレビ小説『あぐり』(NHK)でドラマ初出演を果たす。2007年、ドラマ『花ざかりの君たちへ~イケメン♂パラダイス~』(CX)の出演を機に注目を集め、以降、ドラマ・映画・舞台を中心に活躍。社会派作品でのシリアスな演技やアクションへの挑戦、映画でトランスジェンダーの女性役を好演するなど実力派俳優として幅広い作品に出演している。近年の主な出演作に、【ドラマ】『警部補ダイマジン』(23・EX)、特集ドラマ『幸運なひと』(23・NHK BSプレミアム/NHK BS4K)、【映画】『告白 コンフェッション』(24)、『渇水』『湯道』(23)、『土竜の唄 FINAL』(21)、『友罪』(18)、【舞台】『てなもんや三文オペラ』(22)、「挑む Vol.10~完~」新作歌舞伎『赤胴鈴之助』(21)などがある。劇団☆新感線には、『スサノオ~神の剣の物語』(02)、『Cat in the Red Boots』(06)、『Vamp Bamboo Burn~ヴァン!バン!バーン!~』(16)、『偽義経冥界歌』(19-20)以来5作目の参加となる。