旗揚げ
1980年11月、大阪芸術大学舞台芸術学科の四回生を中心にしたメンバー(こぐれ修、いのうえひでのりら)で、つかこうへい作品『熱海殺人事件』にて旗揚げ。劇団名は、当時のメンバーが実家に帰省する際、新幹線を使っていたというだけのいい加減な理由だった。すぐに解散するはずが、公演が好評だったため翌81年に再演することになり、さらに『いつも心に太陽を』『広島に原爆を落とす日』等ほとんどのつか作品を次々に上演し、つかこうへいのコピー劇団として人気爆発、関西学生演劇ブームの中心的存在となった。当時の劇団☆新感線在籍メンバーとして、筧利夫、渡辺いっけいらがいた。
オリジナル作品へ移行
84年『つかこうへいサヨナラ3本立』と銘打ち、つか作品と決別。同年『宇宙防衛軍ヒデマロ』より、新生・新感線として活動開始。ハードロック・ヘヴィメタルにのせた独自のオリジナル作品を中心とする体制に転換する。翌85年『炎のハイパーステップ』より、いのうえとは高校時代から知り合っていた中島かずきが参加。以降、『阿修羅城の瞳』(87)、『スサノオ』(89)、『髑髏城の七人』(90)等、座付作家として劇団の代表的な作品を書き下ろしている。ちなみに“いのうえ歌舞伎”を銘打つようになったのは86年『星の忍者-THE STRANGE STAR CHILD-』から。
88年以降は東京&大阪で公演を行うように
88年『星の忍者―風雲乱世篇―』で初めて東京の劇場に進出。ストーリー性のある中島かずき作品と、ギャグ色の強い いのうえ作品の両輪で多くの熱狂的なファンを獲得。そのマンガ的な世界をコンサートばりの照明・音響を駆使して彩るド派手な舞台は小劇場界では他に類がなく、演劇という枠を越えて広く話題を集める。役者陣も古田新太を始め、橋本じゅん、粟根まこと、高田聖子、羽野晶紀等、現在の強力なラインナップが集まった。
99年『西遊記~PSY U CHIC~』以降はスケールがアップ
劇団の本公演以外に大手プロダクションと組み、筧利夫主演『西遊記~PSY U CHIC~』(99)、市川染五郎主演『阿修羅城の瞳』(00、03)、堤真一主演『野獣郎見参』(01)等、スケールの大きい舞台を製作。02年の『アテルイ』(市川染五郎主演、堤真一出演)で、作品賞として朝日舞台芸術賞・秋元松代賞を受賞。04年の『髑髏城の七人』では、同じ脚本をまったく別のキャストで演出を変えて連続上演するという試みを決行。ドラマ性の強い『アカドクロ』(古田新太主演)と、ケレン味の強い『アオドクロ』(市川染五郎主演)と見事に趣向を変えた作品はいずれも成功を収めた。そして同年『SHIROH』(中川晃教・上川隆也主演)では本格的なオリジナル・ロック・ミュージカルに挑戦、幅広い観客層の支持を受ける。これらの活躍に対し、いのうえは04年度の日本演劇協会賞を受賞した。
“いのうえ歌舞伎”は<第二章>へ、そして“NEXUS”“R”シリーズへの新たな試み
05年、初めて既存の小説を原作にした舞台『吉原御免状』(堤真一主演、松雪泰子出演)を上演。あくまで原作に忠実に舞台化し、笑いをほとんど排除した作品づくりで新境地を開拓する。“いのうえ歌舞伎”はこの作品以降、よりいっそう人間ドラマを重視する方向へと向かい、<第二章>ともいうべき段階へ。また同年、新感線☆NEXUSとして上演した『荒神~AraJinn』(森田剛主演)では小劇場時代をほうふつとさせる若手役者をフィーチャーした作品づくりをする。その後、“NEXUS”シリーズは『Cat in the Red Boots』(06年・生田斗真主演)を上演。さらに06年には宮藤官九郎を脚色に迎えシェイクスピア作品に初挑戦、四大悲劇のひとつ『マクベス』をヘヴィメタルテイストに大胆にアレンジした新感線☆RS『メタル マクベス』(内野聖陽主演、松たか子、森山未來出演)を上演した。“R”シリーズとしては楽曲がROCKで、バンドが舞台上で演奏するものを指す。
~そして現在~
07年は『朧の森に棲む鬼』で市川染五郎とがっぷり組む“新感染”として新たな方向性を感じさせたと思えば、『犬顔家の一族の陰謀~金田真一耕助之介の事件です。ノート』では3年ぶりにギャグ重視の“ネタもの”を披露。昔どおりのバカバカしさで古くからのファンを安心させ、新たなファンには刺激を与えた。そして08年は、まず“いのうえ歌舞伎☆號”と銘打ちグリング・青木豪に初めて脚本を依頼、森田剛主演で『IZO』を上演。人間を描くことに重きを置いた物語と映像を駆使した新鮮味のある演出で、舞台表現の可能性を広げたと高く評価される。また、新感線☆RXとして音楽と笑いを徹底して盛り込む『五右衛門ロック』を、北大路欣也を筆頭に豪華絢爛なキャストで上演。いかにも“新感線らしい”、派手なお祭り舞台として幅広い観客層から熱い支持を得、これもまたエポック的な作品となった。
09年春は、“いのうえ歌舞伎・壊(Punk)”『蜉蝣峠』(主演:古田新太、堤真一)として一筋縄ではいかない人間ドラマを宮藤官九郎が書き下ろし。笑いと恐怖と涙に劇場が包まれた。
そして秋は、座付作家・中島かずきの書き下ろす2年半ぶりの“いのうえ歌舞伎”『蛮幽鬼』(主演:上川隆也、堺雅人)として新橋演舞場で幕開け。中島独特の切り口で語られる復讐譚を、演出家・いのうえひでのりがスケールの大きなドラマに仕上げた。
現在では、その独特の個性が“新感線イズム”として確立し、“劇団☆新感線”はエンターテインメントの中のジャンルの一つとして語られるようになった。