いのうえ歌舞伎≪黒≫BLACKと銘打ったこの新作は、2000年の『阿修羅城の瞳』に始まった新橋演舞場でのいのうえ歌舞伎公演の第六作となります。
新橋演舞場に初めて古田新太を主演として迎え、劇団☆新感線公演初参加となる倉持裕の書き下ろしにより、数多の傑作時代劇が上演されてきた新橋演舞場で本格派時代劇に挑みます。
結成35周年を『五右衛門vs轟天』というひたすら賑やかなお祭り騒ぎで飾った劇団☆新感線が、2016年に放つ一発目は劇団初の“本格派時代劇”、いのうえ歌舞伎≪黒≫BLACK『乱鶯』です。着々と年齢を重ねてきた劇団員たちの実年齢にも相応しい、“大人でビターな味わい”の“苦みばしったハードボイルド時代劇”となります。
ここ最近では、舞台はもちろん、テレビドラマでも映画でもめったに見られなくなっている王道の時代劇。それも、江戸時代を生きる市井の人々の姿を生活感たっぷりに、深い人間ドラマをメインにすえる作品に挑むというのは劇団としても初めてのこと。演出を手掛けるいのうえひでのりにとっても、これは大きなチャレンジと言えます。
脚本を担当するのは自らが主宰する劇団ペンギンプルペイルパイルズ以外にも数多くのプロデュース公演やユニットに作品を提供したり演出として参加し、テレビドラマや映画でも脚本を手掛けるなど、活躍の幅を広げている倉持 裕。劇団☆新感線への脚本提供は今回初、さらに倉持にとってもここまで本格的な時代劇の舞台脚本に取り組むのは初めての挑戦です。
主人公の<鶯の十三郎>に扮するのは劇団☆新感線の看板俳優、古田新太。元・盗賊の頭とはいえ自分を救ってくれた人たちに必死に恩返しをしようとする、渋さと軽妙さとを併せ持ついぶし銀・十三郎のキャラクターを古田ならではの愛嬌を効かせつつ存在感たっぷりに演じます。
その十三郎の命を救い、夫亡き後も真っ当に生きるように見守っている居酒屋・鶴田屋の女将<お加代>には、劇団☆新感線にはいのうえ歌舞伎『蛮幽鬼』(2009年)以来、二度目の出演となる稲森いずみ。古田とはこれが初顔合わせとなります。切ない大人の恋模様をしっとりと演じてくれることでしょう。
十三郎の恩人の息子で盗賊を追う血気盛んな若者<小橋勝之助>には、特にここ数年は映像にとどまらず舞台での活躍も目覚ましい大東駿介。劇団☆新感線には『港町純情オセロ』(2011年)以来の参加です。今回もまた爽やかにしなやかに大暴れしていただきます。
十三郎が勝之助に手柄を立てさせようとして潜入することになる大店の呉服屋・丹下屋で働く女中・<おりつ>には、劇団☆新感線初参加の清水くるみ。映画『桐島、部活やめるってよ』(2012年)やミュージカル『ロミオ&ジュリエット』(2013年)のジュリエット役等で注目され、メキメキと頭角を現してきている若手注目株です。今回の大人の時代劇で、舞台女優としても新たな魅力を開花させます。 また十三郎が恩義を感じる幕府目付の<小橋貞右衛門>には、劇団☆新感線には『髑髏城の七人―アカドクロ―』(2004年)『蛮幽鬼』(2009年)等に出演している、いわゆる“準劇団員”的存在の山本 亨。物語の“要”とも言える役柄をきっちりと重厚に演じます。
そして悪の限りを尽くす役人、北町奉行所与力の<黒部源四郎>には、これが劇団☆新感線初参加となる大谷亮介。重みと渋味のある演技で、魅力的にこの悪役に命を吹き込みます。
さらに、盗賊<火縄の砂吉>に橋本じゅん、丹下屋の女将<お幸>に高田聖子、居酒屋店主でお加代 の亭主<勘助>に粟根まことが扮するほか、右近健一、河野まさと、逆木圭一郎、村木よし子、インディ高橋、山本カナコ、礒野慎吾、吉田メタル、中谷さとみ、保坂エマら、劇団☆新感線の劇団員も勢揃いで江戸庶民を力強く生き生きと演じます。
2016年春、劇団☆新感線が挑む、立ち回りあり、サスペンス色もあり、ちょっぴり大人の恋模様もあり、の新境地!江戸の市井の人々の生きざまもリアルに描く、人情味溢れる人間ドラマ、『乱鶯』にどうぞご期待ください。
※ちなみに【乱鶯】(らんおう)とは俳句などに使われる季語で、春に鳴くはずの鶯が夏になっても鳴いているさまを 表現する言葉。(みだれうぐいす)と読まれることは一般的にはありませんが……。(倉持氏 談)※